■完熟した種による分類
クリプトコリネは種類により種子の形が異なる。
クリプトコリネ・ロンギカウダは人形のような形、クリプトコリネ・ストリオラタはゴマのような形、クリプトコリネ・シュルツイは細い長粒米のような形等それぞれ形が異なり、分類の対象とする。
ただし、未熟の場合は形が完成していない事から対象としない。
■葉による分類
同定の参考として、初めてクリプトコリネを観察する際、最初に確認するのが葉の形状である。クリプトコリネ・フードロイのように葉が長くて葉脈の目立つもの、クリプトコリネ・シュルツイのように非常に葉肉が薄く、斑点の出るもの。クリプトコリネ・スピラリスのようにクチクラ層が発達しており長葉のもの等である。
クリプトコリネ属は水上形状と水中形状と2つの面を持っており、水上形状のほうに特徴が出やすい傾向にある。
葉脈も観察対象である。種により葉脈の走り方が違ったり、同種でも産地により葉脈が目立つもの、目立たないものがあるが、同種であれば必ず共通点はある。異種ならば共通していない部分が見つかる事もある。
葉における分類の一例として、クリプトコリネ・バンカエンシスは葉の裏が赤いのが大きな特徴の一つであるが、クリプトコリネ・ベリトンエンシスは葉の裏が赤くは無いというクリプトコリネ・バンカエンシスの特徴を大きくひるがえすようなケースも存在し、分類に大きな意味を持たせる。
■葉の特殊形状による分類
葉の特殊形状は決定的な分類手段の一つである。見た目が似たような種類であっても、クリプトコリネ・ロンギカウダは葉の縁が肉厚の凹凸が出る形状なのに対し、クリプトコリネ・フスカは葉の縁に毛が生えている。毛が生えているのは特殊な形状であり、分類的特徴である。
クリプトコリネ・エリプチカは葉柄に新芽を持っている。クリプトコリネ・クリスパツラを始めとするメコン川流域に生育するクリプトコリネは水上形状の葉先に棘のような形状を持っていたり、葉の縁にランダムにかなり目立つ突起を確認出来る。クリプトコリネ・クリスパツラ同様にクリプトコリネ・ウンナンエンシスも水上形状の葉の縁にランダムに退化した突起、葉先の刺等を確認出来る為、クリプトコリネ・クリスパツラの一種であると判断している。
■花粉による分類
花粉は種の同定ではなく、独立種か、自然交配種かの判断に用いられる。顕微鏡での観察が必要となるが、花粉自体にクラックが入っていたり、不自然な形をしていたりと、花粉に多くの欠損が見られた場合、独立種ではなく自然交配種と考える。
気をつけなければいけないポイントとして、独立種であっても全ての花粉が完全体では無い事を理解しておかなければならない。独立種の花粉を観察していても欠陥が見つかる事はあるが、自然交配種の場合は殆どに異常を確認する事が出来る。
その結果、自然交配種は果実を作らない、たとえ種子を形成したとしても発芽しない、などが自然交配種の特徴である。
なお、クリプトコリネの花粉は成熟したクリプトコリネの花を切開し、雄蕊を摘出する。それを顕微鏡用ガラス板に塗りつけ、プレパラートを製作すれば良い。
■根茎による分類
根茎は非常に大きなクリプトコリネの分類方法である。
クリプトコリネ・レトロスピラリスは不定根が何本も地中に発根し、草体を支えているのに対し、クリプトコリネ・ユンナンエンシスは主根1本を地中深くに伸ばし、側根や細根を展開する。上記の2種は表面上では似ていても、地中では全く異なる特徴を持っている。
クリプトコリネ・ティマヘンシスは主根をはじめとする根茎が非常に貧弱で、主根を数センチ伸ばし、側根や細根で体を支えているが、クリプトコリネ・ヌーリーの主根は非常に強く、時に50センチ〜80センチにも主根が達し、かなり地中の深い位置から葉が羽状複葉(Pinnate compound leaf)のように交互に展開する。これはクリプトコリネ・ヌーリーの分類的な特徴の一つである。
クリプトコリネ・キリアータは主根が途中で切れている。成長に伴い主根の先端が死滅していくため途中で切れているように見える為である。
クリプトコリネ・ベトナムエンシスは強靭な主根を持つ。
またクリプトコリネ・デクスメコンゲンシスは頑丈な塊状の塊根を有する。
また根茎を考える場合、土質も考慮しなければならない。腐葉土層のような非常に柔らかい土質、岩盤地帯のような硬い土質では根の張り方が異なるため根茎による分類にはより多くの種類を観察し、慣れていくことが必要ではあるものの、種における根本的な特徴は変わらないため非常に大きな分類方法であると考える。
クリプトコリネの標本を作る際、根を切っている個所が見られた場合、クリプトコリネを良く理解していない人物が製作したものであろうと判断できる。
しかし補足として、クリプトコリネの根を完全体で掘りだすのは非常に大変な作業である。種により違いがあるものの、タンポポを完全体で掘るような覚悟が必要である。
根茎は人工育成下では退化してしまい、本来の形を有しにくくなる。
■実による分類
まずAraceaeの果実は日本語では漿果(しょうか)と呼び、植物学用語では対訳であるberryと書く。フルーツと言うのは間違い。
クリプトコリネは種類により実の形状が異なる。これも比較的大きな分類学的な判断要因である。クリプトコリネ属の実は大きな変異こそみられないものの、クリプトコリネ・コルダータのように実の皮が薄いもの、クリプトコリネ・アフィニスのように実の皮が固いものから、クリプトコリネ・イデイイ、クリプトコリネ・サンガウエンシスのように実の形状が異なる物、クリプトコリネ・シヴァダサニーのような丸い実をつけるもの、種の配列が異なる事などが分類方法としてあげられる。
■雌蕊による分類(ケトル内部)
古くから植物学の分類として蕊を同定方法として採用しており、クリプトコリネ属も雌蕊の形状が非常に重要視されてきた歴史がある。雌蕊による分類、同定方法は非常に重要であり、非常に有効的な分類方法である。
クリプトコリネを紹介する際に、ケトルを切開し、雄蕊、雌蕊、台座、香卓、トップ、リフレクターが確認できるように紹介される理由は種の判断としてケトルの内部が非常に種の同定要素として重要だからである。
ここでは雌蕊を中心として話を進めていくが、もちろん種により雌蕊の形状が異なる。クリプトコリネ・コルダータは卵型の雌蕊が6本〜8本付いている。クリプトコリネ・プルプレアは雌蕊がウサギの尻尾のような丸みを帯びてふくらみが確認出来る。クリプトコリネ・グリフィティーは全体的に四角く、縁取りのように赤い色が入っている。クリプトコリネ・シヴァダサニーは台座(実になる部分)に張り付いているように雌蕊が確認出来る。
クリプトコリネ・ウェンディティは楕円の雌蕊が台座のすぐ上に出ており、雌蕊の柄が短い等
雌蕊の形状で判断するのは植物学及び、クリプトコリネ属の基本中の基本で、種により蕊の形が異なる事は覚えておく必要性が非常に高い。
しかしそれと同時に注意しなければならないポイントがある。厳密に言うと「雌蕊の形は種類により完全に安定している訳ではない」と言う事である。クリプトコリネを多少理解している方には申し訳ないが、同じ産地で同時期、完全なる同種であっても雌蕊が楕円であったり、丸であったり、卵型であったり、先端がさすまたになっていたりという変化が見られるという事である。
安定している種類、不安定な種類とクリプトコリネ属でも様々ではあるものの、蕊が異なるから別種と言うような短直な判断は避けるべきである。
正しい判断方法としてより多くの花を切開し、多くの雌蕊の形状を確認し、観察対象の種類のパターンを見極めることが重要である。
当サイトでは出来るだけ多くの花を切開し、並べ、比較し、掲載するように努めている。エンサイクロペディアではページの制約から一部しか紹介していないが、実際には無数の花を切開し検証し、一番基準的な形である、または準基準的である雌蕊を紹介している。
■雄蕊による分類(ケトル内部)
ごく一部のクリプトコリネは雄蕊に特徴を有しているものもある。クリプトコリネ属の雄蕊は不特定多数で種類によって数が決まっている訳ではない。若い雄蕊はぎっしりと間隔が詰まっているが、老化とともに間隔が広がる(ばらけていく
雄蕊に特徴がある種類としてクリプトコリネ・ユウジイが挙げられる。クリプトコリネ・ユウジイは雄蕊の中心が紫色をしている。これはクリプトコリネ・ユウジイの種の判断的要素である。
また雄蕊の心棒が長いか短いかでも分類要素の一つである。クリプトコリネ・ロンギカウダのように雄蕊の心棒が長い種類もあればクリプトコリネ・パリジネルヴィアのように雄蕊の心棒が短い種類もある。
またトップの色も分類の参考にすることはある。
■ケトルの形による分類
ケトルの形は基本的には筒型のような形をしているが、種により変化が見られ、比較的大きな分類要因の一つとして考えている。
一番わかりやすいのがケトルに返しがあるか、無いかである。返しと言うのは本来筒型であるケトルが瓢箪のように中央部分がくぼんでいる現象で、リフレクターとともに媒介昆虫の誘因が理由であるが、クリプトコリネ・アルビダ、クリプトコリネ・ノリトイ、クリプトコリネ・フェルギネア、クリプトコリネ・ザイディアナ、クリプトコリネ・メコンゲンシス、クリプトコリネ・クリスパツラのグループなど無数にある。
この返しがあるか、無いかで種の同定はほとんど決まる。一例としてクリプトコリネ・ロンギカウダとクリプトコリネ・ノリトイのケトルの蕊を除いた外観だけで種の同定が出来るという事である。
ケトルは左右対称ではなく、時に変な形を持っている種類も存在する。
補足として、花の出現場所もこの項目で紹介したい。一般的に株の中心に花芽は形成されるがクリプトコリネ・クリスパツラのグループのように株の外側から花芽が形成されるケースがある。クリプトコリネ・トンキネンシスは株の中心より成熟し、開花したケトルのほうが大きく見えるなどの特殊なケースもある。このケトルが株のどこにあるのかは、種の判断要素の一つである
この項目は当サイトでも非常に重要なので、私のメモ書きのごく一部を早い段階で紹介したに過ぎない。いずれ分かりやすい形式で写真とともに多言語にて清書するが、2014年は東南アジア生活の拠点を移してクリプトコリネの調査をしている段階でホームページを更新する時間が取れないのはご考慮いただきたい。
2014年3月17日 カンボジア・クラチェより寄稿